日本における竜巻発生の環境場 －新しいシビアストーム・パラメータの提案－
竜巻発生近傍（発生前後2時間以内，半径50km以内）のレーウィンゾンデデータ（55事例）とJRA-25長期再解析データを主に用いて，
日本の竜巻発生環境場の実態を統計的に調査し，シビアストーム発生のポテンシャルを示す既存のパラメータについて，その診断基準が日本ではどの程度有効かどうかを考察した．
K指数（Ki）と対流抑制（CIN）の頻度分布から、他の大気安定度パラメータに較べて，両パラメータの有効性が高いことがわかった．また，水平風の鉛直シアーに関するパラメータではストームに相対的なヘリシティ（SRH）が有効な指標であることが再確認された．
複合パラメータに関しては，対流有効位置エネルギー（CAPE）の有効性が低いために，どの複合パラメータも実用面で問題がある．このため，KiとSRHの積で定義される新しい複合パラメータ（KHI）を提案し，環境場の事例解析により検証を行った結果，
米国と比較すると日本では対流圏中層が湿潤で下層の鉛直シアーが大きい，ミニスーパーセルの発生環境場で竜巻被害が起こることが多いと考えられる．KHIのシビアストームの検出率は高いが，上層の寒冷渦に起因する竜巻の事例等では検出が難しいことも示唆された．
飯塚・加治屋（2011）による各種診断指数の評価によれば，①KHIが最も地域依存性が低く，②スーパーセル竜巻と非スーパーセル竜巻の差異がKHIで比較的明瞭で，
③日本全体のデータに基づいたスレットスコア（Threat Score）はKHIが最も高い（0.37）という特徴が見出されている．
もちろん，他の診断指数と同様にKHIの欠点も少なからずあるが，日本全国に適用可能な汎用性の高い「シビアストーム発生ポテンシャル指数」の一つと言えるだろう．
*詳細は下記論文を参照してください。
櫻井渓太・川村隆一, 2008: 日本における竜巻発生の環境場と予測可能性． 天気, 55, 7-22.
