北海道の夏季静穏日におけるGPS可降水量の日変化
1996年~2006年の7月,8月の地上気象観測データを使用して,北海道の夏季静穏日12日間を抽出した.12日間の合成図を基に,地上風系,気温,混合比,海面更正気圧およびGPS可降水量の日変化を調査して,北海道における夏季静穏日の熱的局地循環とそれに伴う水蒸気変動の実態を明らかにした.具体的な知見は以下の通りである.
(1)石狩山地南東側の,可降水量日較差が7~8mmとなる極大域では,可降水量の日変化は6時頃に極小値,18時頃に極大値を示した.熱的低気圧は15時に最盛期を迎えた.先行研究の大橋・川村(2006)でも可降水量は6時に極小値,18時に極大値をとり,熱的低気圧は14-15時に最盛期を迎えており,本研究と一致する.また,平野部における可降水量の日平均値はオホーツク海側で高い値(網走で29.6mm)を,日本海側で低い値(江差で26.0mm)を示す傾向がみられた.対照的に,地上混合比の日平均値はオホーツク海側で低く(網走で11.5g/kg),日本海側で高い(江差で13.2g/kg)傾向がみられ,可降水量日平均値の分布と地上混合比日平均値の分布がかなり異なっていることが見出された.
(2)ラジオゾンデやウィンドプロファイラ観測から,高度1500m以上では北海道全域で北西風が終日にわたり卓越していると推測される.その結果,可降水量の日較差の極大域は熱的低気圧の中心である石狩山地から南東方向に偏っていると考えられる.
(3)日中の熱的局地循環によって山岳上空に集積した水蒸気が,北西寄りの一般風によって風下側へ輸送された結果,オホーツク海沿岸地域や太平洋沿岸地域では,むしろ夜間遅くに可降水量偏差の極大値が観測された.一方,日本海側沿岸の一部の地域でも夜間に可降水量の増大が見られたことから,山風や陸風による山岳から沿岸地域への水蒸気輸送が顕著な地域もあると推測される.
北海道の熱的局地循環に伴う可降水量の日変化特性は,関東地方や中部地方を調査した先行研究(佐々木・木村 2001;大橋・川村 2006)と較べて,かなり強く一般風の影響を受けているということがわかった.
*詳細は下記論文を参照してください。
澤田岳彦・川村隆一, 2010: 北海道の夏季静穏日におけるGPS可降水量の日変化. 天気, 57, 305-314.