Dynamical Role of the Changbai Mountains and the Korean Peninsula in the Wintertime Quasi-Stationary Convergence Zone over the Sea of Japan
北西季節風が卓越する時、日本海上に準定常的なメソスケールの収束帯がしばしば出現する。日本海寒帯気団収束帯(Japan Sea polar airmass convergence zone; 略してJPCZ)と呼ばれ(浅井, 1988)、北陸地方などの日本海沿岸地域の局地的な大雪の発生要因として注目されてきた。JPCZ形成の主要因として朝鮮半島の北に位置する長白山系の障壁効果(blocking effect)が先行研究(Nagata et al., 1986ほか)で指摘されている。
ところが、日本海沿岸地域の大雪との関連性が指摘されているにもかかわらず、個々の事例解析に留まっておりJPCZ自体の統計的研究はほとんどみられない。また長白山系の重要性もいくつかの事例で指摘されているのみで、その障壁効果の普遍的理解は必ずしも進んでいない。最近の研究で、長白山系(周辺山岳含む)の標高改変実験の結果、山岳の障壁効果が無くなると冬季日本海沿岸地域の月積算降水量はむしろ増加するという報告がなされている(Shimizu et al., 2017)。一見すると、これまでの『JPCZが大雪をもたらす』という常識に矛盾しているような結果である。
この矛盾を解くために、本研究では領域気象モデルの長期積分(再現実験)を実施し、JPCZが頻繁に出現する12月に限定しているが、2000年から2018年までの19冬季について統計的にJPCZの抽出と分類を行った。抽出と分類手法は論文中に記載されているが、今後のJPCZ研究の参考基準としての活用が期待される。並行して、長白山系の標高改変実験を行い、JPCZ出現時のみに注目して山岳の障壁効果の有無のインパクトを定量的に評価した。主な結果は以下の通りである。
(i) 長白山系の存在はJPCZの形成に必須である事が再確認された。この結果は先行研究から予想された結果であるが、多数のJPCZイベントを対象にして統計的に明らかにされた点に意義がある。
(ii) JPCZが出現すると、通常は日本海沿岸地域の降水量はむしろ減少する事が見出された。標高改変実験と再現実験との比較から、長白山系の障壁効果が無ければ日本海沿岸地域の降水量は少なくとも10%から15%程度増加する結果が得られている。①JPCZ内の水蒸気収束による凝結が大幅に抑制されるため、水蒸気が消費されずに沿岸地域に多量に流入し、降水量の増加に寄与する。また②海上風速も強まるため、海面からの蒸発が活発化し沿岸地域への水蒸気の流入を促進する。主にこれらのプロセスが降水量の増加を招いていると考えられる。
(iii) しかし、北西季節風の更なる強化と長白山系の障壁効果が複合した結果、日本海上で極端に強い水平収束が生じてメソ擾乱が急速に発達した場合(JPCZイベントの極端なケース)には、メソ擾乱が付随する降水帯がゆっくり南下して沿岸地域に大雪をもたらす事がある。
(iv) また、長白山系の障壁効果で日本海上の総観規模の低気圧などの構造変化がもたらされたり、低気圧の発達が変調を受けると、背景場の北西季節風が変化し、沿岸地域の降水量の持続をもたらす場合がある。
以上のように、長白山系の障壁効果は冬季日本海沿岸地域の降水量に対して二つの相反する役割を果たしていることが明らかになった。JPCZが出現する場合、統計的には沿岸地域の降水量を減少させる方向に働くので、山岳の障壁効果が無くなると日本海沿岸地域の月積算降水量はむしろ増加するという最近の報告と矛盾しない。一方、JPCZが局地的な大雪をもたらすという、これまでの常識は『JPCZの極端事例』を眺めていた結果であると解釈できる。つまり、「大雪発生→JPCZ出現」という一方向だけを見ていたため、「JPCZ出現→大雪発生」という逆方向を検証していなかった事に関係している。いずれにしても、上記の矛盾はめでたく解消されたと考える。
*Please refer to the following manuscript.
*詳細は下記論文を参照してください。
Shinoda, Y., R. Kawamura, T. Kawano, and H. Shimizu (2021):
Dynamical role of the Changbai Mountains and the Korean Peninsula in the wintertime quasi-stationary convergence zone over the Sea of Japan.
International Journal of Climatology, 41, E602-E615. https://doi.org/10.1002/joc.6713