Diversity of lagged relationships in global means of surface temperatures and radiative budgets for CMIP6 piControl simulations
温暖化を評価する際に用いられる気候感度(温室効果ガスの倍増に伴って, 全球的にどれくらい温度が上昇するか)の見積もりには, 長らく大きな不確実性が残されてきた. 特に, 気候モデルを元に計算される気候感度は, 依然として大きな不確実性が残されており, その要因分析が必要とされている(Meehl et al. 2020ほか). 先行研究において, 気候系内部変動に伴って生じる全球的な温度上昇とそれに伴う放射応答の大きさ(内部変動に伴う放射フィードバック強度)は, 温室効果ガスの増加に伴う放射フィードバック強度との間に気候モデル間で有意な相関関係を持つことが指摘されており, 不確実性評価に役立つ一要素としての可能性を秘めている.
しかし, 内部変動に伴う全球的な温度上昇と放射応答の間には時間的なラグがあり(Xie et al. 2015; Proistosescu et al. 2018ほか), さらにそのラグの大きさが気候モデル間でばらつくことを, 私たちは見出した.
本研究では, 第6期結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP6)における産業革命前実験と大気モデル歴史実験のデータを主に用いて, 全球平均地表面温度(GMST)と大気上端での放射応答(GMTOA)の間の時間的なラグがモデル間でばらつく要因を, ラグの大きさを元に3つのグループに分類して明らかにした(ラグの小さい順に, Group C, Group A, Group B). さらに, ラグの大きさがモデルによって異なることが内部変動に伴う放射フィードバック強度と温室効果ガスの増加に伴う放射フィードバック強度の関係にも影響を与えることを示した. 主な結果は以下の通りである.
(i) GMSTとGMTOAの間のラグの大きさは, 気候学的な場における大気の安定度とそれに伴う対流活動の強度・下層雲の感度の違いによって変化する.
(ii) 大気場が不安定であるほど, 同じだけ海面温度が上昇した時の対流活動が強化され, より速いエネルギー放出を伴うため, 結果としてラグが小さくなる.
(iii) 大気場が安定であるほど, 対流活動に伴うエネルギー放出が弱くなる. それに加え, 下層雲の感度が高いことに伴って, 海面温度が上昇した時に下層雲を大きく減少させて地球に入ってくる放射を強化するのに対し, 海面温度が下降した時に下層雲を大きく増加させて, 地球から出ていく放射を強化する. この効果が, 全球的な放射応答にも影響を与える. そのため, 海面温度が下降した時, つまり, GMSTのピークから時間が経ってからGMTOAがピークを迎えるため, ラグが大きくなる.
(iv) 大気の気候場の違いは, 大気モデルの特徴に起因している. また, このような大気場における安定度の違いに伴い, 対流活動の強度が弱く, 下層雲の感度が高いモデルにおいては, 放射フィードバック強度のモデル間の関係も弱化する(Fig. 2).
以上の結果から, ラグの大きさがモデル間でばらつく要因に加え, それにより明らかになった大気安定度の違いが, 放射フィードバック強度の見積もりにも影響を与える可能性が指摘された. 放射フィードバック強度のモデル間のばらつきは, 昇温パターンとそれに伴う放射フィードバック強度の違い(i.e. パターン効果)により説明できる可能性が指摘されているため(Dong et al. 2020), 本研究の結果は, パターン効果の感度が大気安定度の違いと関連して, 変化する可能性を示唆している.
*Please refer to the following manuscript.
*詳細は下記論文を参照してください。
Tsuchida, K., Mochizuki, T., Kawamura, R., Kawano, T., & Kamae, Y. (2023):
Diversity of Lagged Relationships in Global Means of Surface Temperatures and Radiative Budgets for CMIP6 piControl Simulations.
Journal of Climate., 36(24), 8743–8759. https://doi.org/10.1175/JCLI-D-23