東アジア夏季の異常気象に関連する遠隔伝播パターンの動態
(関連論文は J. Meteor. Soc. Japan, vol. 82, 1577-1588. に掲載)
日本及びその周辺地域の暑夏あるいは冷夏の原因として、従来までは北太平洋(小笠原)高気圧、オホーツク海高気圧、チベット高気圧の動向(作用中心の変動)で説明されてきたが、遠隔伝播(球面上の定在ロスビー波の伝播)の概念が適用されてからは、主なテレコネクションとして、熱帯西部太平洋からの波列パタン(Nitta 1987; Kawamura et al. 1996)、チベット高原上空を横切る波列パタン(Krishnan and Sugi 2001; Wu and Wang 2002; Enomoto et al. 2003)、ユーラシア北部を横切る波列パタン(Wang 1992; Wang and Yasunari 1994; Nakamura and Fukamachi 2003)などが指摘されている。ただ残念な事に、これら多くの関連研究は注目する気象要素や解析手法等が異なり、同じ基準(土俵)で客観的に比較するという事がなされておらず、そのため各テレコネクションが相対的にどの程度日本の夏季気温変動に影響を与えているのか、地域的な違いなどが曖昧のままである。そこで本研究では、比較可能な物理量として再解析データから計算した流線関数偏差を基に、EOF解析と回帰分析を併用して各テレコネクションの特徴について比較し、日本の気温変動との関連性を調べた。
1974年から2003年までの30年間のNCEP/NCAR再解析データ及びNOAA OLRデータを使用。ユーラシア北部地域,中緯度アジア地域,西部北太平洋域の流線関数偏差にEOF解析を適用し卓越モードを抽出した。主なテレコネクションの変動度を説明する、月別のテレコネクション指数も併せて定義し、回帰分析により日本及び周辺地域の気温変動との関連を調べた。同様な解析をECMWFの再解析データ(ERA40)でも行った。またこれとは別に、気象研究所大気海洋結合モデル(MRI-CGCM ver2.3.2; T42L30)の50年間の長期積分を実行し、上記のテレコネクションが結合モデルでどの程度再現されているのかを評価した。
その結果、日本及びその周辺地域の夏季の異常気象と関係が深いと考えられる四つのテレコネクションが抽出された(下図)。特に夏季前半にユーラシア北部上空で卓越する二つのテレコネション(EJ1とEJ2)はオホーツク海高気圧の変動と関係している。第3のテレコネクション(WJ)は西アジアから北太平洋中央部にかけての対流圏上層亜熱帯ジェットに沿った定在的な波列パタンであり、インド夏季モンスーンの対流加熱偏差によって励起されている可能性があげられる。第4のテレコネクションは新田によって見出されたPJパタンであると同定できる。 PJおよびWJが最も影響力のあるテレコネクションであり、PJは特に北日本、WJは西日本の気温偏差と密接に関連している(図略)。 EJ1とEJ2もまた、極端な夏が生じたいくつかの事例で卓越しており、PJも含めて両テレコネクションは2003年の冷夏に重要な役割を果たしている。
モデルにおいても、各テレコネクションが再現されており、例えば、フィリピン海付近の対流加熱に励起されたPJパタンの構造が非常に観測と類似していた。しかしながら、モデルのWJはインドモンスーン変動との関係は必ずしも明瞭ではない。他にも相違点があり、それらの原因を探っていく必要がある。
東アジア夏季の異常気象発生の要因と成り得るテレコネクションの監視が異常気象の理解とその予報に有用であると考えられる。今後、励起源としてのモンスーン熱源の問題や複数のテレコネクションの複合効果の問題、予測可能性の問題など、再解析データとGCM実験で詳しく調べていく予定である。なお、本研究は気象研究所との共同研究で実施されたものである。