南アジア夏季モンスーンシステムに及ぼすエルニーニョ南方振動の赤道対称インパクト
(J. Meteor. Soc. Japan, vol. 81, pp. 1329-1352に掲載)
NCEP/NCAR再解析データと海洋大循環モデルを用いて、エルニーニョ南方振動(ENSO)が南アジア夏季モンスーンシステムに与える影響を調べ、ENSOの発達期に作用する赤道対称インパクトを見出した。このインパクトは対流圏二年振動(TBO)的なENSOが卓越した1960年代から1970年代中頃までの期間の夏季後半において顕著である。
ENSOが発達するにつれて、熱帯インド洋及び太平洋上のウォーカー循環偏差は夏季のsingle-cell regimeから秋季のdouble-cell regimeに遷移する。その間、熱帯インド洋上では降水量偏差の赤道対称構造が誘引され、対流圏下層では赤道を挟んで南北の双子循環偏差がみられる。北半球側の循環偏差は特に夏季後半のインド亜大陸のモンスーン降水量偏差と直接関連している。TBO的なENSOと関連したウォーカー循環偏差のレジーム遷移が生じるためには、インド洋の風-蒸発フィードバックと赤道太平洋の海洋力学の双方が重要であることが示唆された。
1970年代後半を境にENSOの季節性が変化したことにより、ENSO発達期と衰退期のモンスーンへのインパクトの違いがENSO-モンスーン結合関係に影響を与え、その数十年スケールの変化を引き起こした可能性がある。
200hPa速度ポテンシャルの合成偏差図(強モンスーン/ラニーニャ年と弱モンスーン/エルニーニョ年との差).
1960年代から1970年代半ばまでのモンスーン強弱年(Kawamura et al., 2003)を抽出.夏季モンスーンの開始6-7月から次の年の春季4-5月までの各2ヵ月平均(JJ, AS, ON, DJ, FM, AM)で示す.等値線間隔は5x10**5 m2 s-1.
まず6-7月に注目すると、熱帯インド洋では発散偏差(オレンジ色)、熱帯太平洋では収束偏差(緑色)がみられ、両大洋間にまたがるウォーカー循環偏差の存在を示している。また、インド亜大陸上の有意な偏差は6-7月より8-9月に顕著であり、climate shift以前ではNino-3 SST (JJA)は6-7月のモンスーン指標より(r=-0.62)、8-9月のモンスーン指標と相関が高い(r=-0.90)という事実と矛盾していない。
熱帯インド洋の発散偏差は8-9月に最大(60x10**5 m2 s-1 )となり、その発散中心は強さを維持しながら冬季にかけて海洋大陸上へと東進する。
10-11月になると熱帯太平洋とは別の収束偏差がマダガスカル島付近にみられ、インド洋で新たなウォーカー循環セル(偏差)が形成されていることがわかる。12-1月では海洋大陸上の発散偏差は弱まり、その後春季にかけて急激な位相反転が起こる。
4-5月の偏差分布(f図)は6-7月のそれ(a図)とほぼ偏差の符号が反転しており、エルニーニョの開始(オンセット)を反映している。
1960年代から1970年代半ばまでのモンスーン強弱年(Kawamura et al., 2003)を抽出.夏季モンスーンの開始6-7月から次の年の春季4-5月までの各2ヵ月平均(JJ, AS, ON, DJ, FM, AM)で示す.等値線間隔は5x10**5 m2 s-1.
まず6-7月に注目すると、熱帯インド洋では発散偏差(オレンジ色)、熱帯太平洋では収束偏差(緑色)がみられ、両大洋間にまたがるウォーカー循環偏差の存在を示している。また、インド亜大陸上の有意な偏差は6-7月より8-9月に顕著であり、climate shift以前ではNino-3 SST (JJA)は6-7月のモンスーン指標より(r=-0.62)、8-9月のモンスーン指標と相関が高い(r=-0.90)という事実と矛盾していない。
熱帯インド洋の発散偏差は8-9月に最大(60x10**5 m2 s-1 )となり、その発散中心は強さを維持しながら冬季にかけて海洋大陸上へと東進する。
10-11月になると熱帯太平洋とは別の収束偏差がマダガスカル島付近にみられ、インド洋で新たなウォーカー循環セル(偏差)が形成されていることがわかる。12-1月では海洋大陸上の発散偏差は弱まり、その後春季にかけて急激な位相反転が起こる。
4-5月の偏差分布(f図)は6-7月のそれ(a図)とほぼ偏差の符号が反転しており、エルニーニョの開始(オンセット)を反映している。