Research6 of j-kawamura

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南アジア夏季モンスーンのオンセットのメカニズム
(J. Meteor. Soc. Japan, vol. 81, pp. 563-580に掲載)


 大気海洋相互作用を考慮したオーストラリア夏季モンスーンのオンセットのメカニズムが、南アジア夏季モンスーンについても適用可能かどうか、ヨーロッパ中期予報センター作成の再解析データ等を用いて検証した。

 我々のメカニズムでは、大陸の赤道側沿岸海域での海面水温の上昇と対流圏中層(600-850hPa)への乾燥移流の複合効果が、オンセット前の対流不安定を強める重要な役割を担っている。解析の結果、5月中旬のインドシナ半島のオンセットよりもむしろ6月初めのインド夏季モンスーンの突然のオンセットにそのメカニズムが適用できることがわかった。インド亜大陸の沿岸地域でオンセットが最も突然に生じるという観測事実とも矛盾しない。インドシナ半島ではオンセットの時期は最も早いが、オンセットそれ自身は漸移的である。夏季モンスーンの開始期と終了期の間の遷移速度の非対称性も同様な地域性をもっている。

 もしそのメカニズムがインド亜大陸と隣接する海域に効果的に働くならば、海陸間の熱的コントラストの結果として、亜大陸スケールの熱的低気圧の周囲で生じる下降流が積雲対流を抑制するので、インド夏季モンスーンのオンセットは東南アジアのそれと比較して遅れることが予想される。このことが、なぜ南アジアの夏季モンスーン循環に2回の主要なオンセットがみられるのかという疑問に対する解答の一つかもしれない。

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夏季アジアモンスーンの開始前後の地上付近の気温、風ベクトルならびに外向長波放射量(OLR)の分布.年平均からの偏差で東西非対称成分のみ示す。

赤い領域(OLRが負)では一般に雲の活動が活発である。4月下旬から5月上旬にかけて東南アジアは赤い領域で覆われており、この地域の雨季の始まりに対応している。また、6月初めになるとベンガル湾やアラビア海でも対流活動が活発化しており、インドモンスーンのオンセット(開始)にまさに対応している。