メガストームとは

まず始めに、メガストーム(megastorm)は気象学分野の専門用語ではないことを断っておきます。
コリンズ英語辞典では、”a very powerful storm that causes catastrophic damage”として2013年4月19日にmegastormを新用語として定義しています。米国では、カテゴリー4や5レベルのハリケーンが暴風・豪雨・高潮等で甚大な被害を与えた時(あるいは与える可能性がある時)にマスメディアでmegastormと報道される場合があります。最近の事例では、カテゴリー5のHurricane Irmaがmegastormとして注目され最大限の避難行動をとるよう報道されました(2017年9月上旬)。また、寒候期に急発達する温帯低気圧が暴風や豪雨(豪雪)等で甚大な被害をもたらす場合に、weather bomb(和訳:爆弾低気圧)あるいはmegastormと呼ばれたりしています。
このように、熱帯低気圧でも温帯低気圧でも、途方もない被害が及ぶ場合にこの用語が使われる傾向があります。

一方、英国気象局(UK Met Office)のStorm Centreでは、2015年9月から、英国を中心に広範囲かつ深刻な暴風・豪雨・豪雪災害をもたらす可能性の高いmajor winter stormに名前を付与して(例:2017年9月12日命名のStorm Aileen)、真近に迫る気象災害に対して国民が準備あるいは初期行動をとるよう促しています。
たとえば、2015/16年シーズンには11個のmajor winter stormが命名されました。このようなmajor stormの一部をmegastormと呼んで英国メディアで報道される場合があります。

翻って日本ではどうでしょうか。全国規模で甚大な災害をもたらす総観規模のストームとして、①台風と②急発達する温帯低気圧(爆弾低気圧)が双璧をなしています。台風は気象庁で正確に定義されている一方、爆弾低気圧という呼称は気象庁では使われていません(気象学界ではweather bombの直訳として従来から慣例的に使用されています)。
名称はどうであれ、爆弾低気圧がもたらす甚大な被害は台風に匹敵し、例えばその暴風圏は台風をも凌ぐ事例が数多くあります。
UK Storm Centreのように、深刻な被害をもたらす可能性の高い冬の嵐(爆弾低気圧)に対して名称を与えて注意を喚起することも今後検討する価値が十分にあります。また、両ストームは災害ハザード(危険度)は類似点もありますが、気象学的な構造の違い等で相違点がかなりあります。
両者を比較してその違いを適切に理解することは、減災・防災の観点で非常に重要な事だと考えています。

地球温暖化が進行すると、スーパー台風が増加するという報告がなされていますが、爆弾低気圧が強化あるいは巨大化するのかについては混沌としています。両ストームが激甚化(強度・発生数の増加)するのかという問題については依然として大きな不確実性があります。
いずれにしても、過去に発生した台風や爆弾低気圧の動態ならびに両ストームがもたらした災害規模をデータベースとして整理をし、今後の変化傾向のシグナルを検出または同定していく努力が必要であると考えられます。

以上の背景から、日本では馴染みのない呼称ですが、甚大な広域災害をもたらす(ハリケーンではカテゴリー4や5クラスの)最大級の台風と、同じく甚大な被害をもたらす最大規模の暴風圏をもつ爆弾低気圧を、総称して『メガストーム』と名付けて、「台風情報データベース」と「爆弾低気圧情報データベース」の二つのデータベースから構成される『メガストーム情報データベース』を2017年11月1日から公開しています。
なお、ストーム強度と被害規模の双方を考慮して、どの台風あるいは爆弾低気圧がメガストームに相当するのかについてはデータベース内で特定している訳ではないことにご留意ください。

近未来の地球環境の下で、日本における台風・爆弾低気圧起源の災害が激甚化していくのかを客観的に明らかにしていくために、また減災・防災の調査研究の推進のために、さらには国・地方自治体レベルの災害対策のために、本データベースが有効に活用されることを願っています。