トップページプロジェクト概要日本近海の爆弾低気圧活動の変動機構と気象・海象災害発生プロセスの研究

プロジェクト概要
爆弾低気圧がもたらす気象・海象災害の軽減に関する総合的研究  研究代表者 川村隆一

研究目的

本プロジェクトの目的は、台風に匹敵する大規模気象・海象災害をもたらす爆弾低気圧に焦点を当て、爆弾低気圧災害の減災・防災を目指すものです。非常に進歩している台風の災害予測研究のレベルに爆弾低気圧災害の予測研究も早急に追いつくために、①爆弾低気圧の発生・発達・進路予測の改善、②爆弾低気圧起源の極端現象の再現性評価と予測の改善、③爆弾低気圧起源の災害ポテンシャル予測・災害リスク評価・災害予測情報の開発、の三つのサブ課題について三位一体の研究を推進します。

高解像度全球大気モデル・領域気象モデル・波浪予測モデル等の最先端の数値モデルとシミュレーション技術を駆使し,警報・注意報のリードタイムが非常に短い爆弾低気圧の災害予測の問題点を解決し,災害ポテンシャル予測・予測情報の開発を通して減災・防災に貢献します。

学術的背景

中高緯度地域で短時間に急発達する温帯低気圧は通称「爆弾低気圧」と呼ばれています。特に日本近海並びに北西大西洋で頻発する爆弾低気圧は、熱帯低気圧(台風)と双璧をなす総観規模擾乱です。日本に深刻な気象災害あるいは海象災害をもたらす主な現象として、①梅雨末期の豪雨災害、②台風災害、そして③爆弾低気圧災害が挙げられますが、各々の災害発生には季節依存性があり、梅雨末期の豪雨災害は主に7月、台風災害は7月~10月、爆弾低気圧災害は10月~4月です。被害の空間規模は台風と爆弾低気圧が極端に大きく、爆弾低気圧は台風に匹敵する突風・暴風波浪や大雨・大雪等をもたらし大規模気象・海象災害の発生要因となっています。最近では、2012年4月初めに発生した爆弾低気圧(図1)は全国的に暴風・大雨をもたらし、人的被害(死亡3人、重軽傷110人)のみならず全国規模で深刻な交通障害などが生じました。過去にも雪氷災害(例:平成18年豪雪)、高波被害(例:富山湾寄り回り波)、船舶の転覆・座礁、竜巻被害(例:佐呂間竜巻)など多くの爆弾低気圧起源の災害が発生しています。

国外の研究動向として、1988/89年にERICA(Experiment on Rapidly Intensifying Cyclones over the Atlantic)や1997年にFASTEX(Fronts and Atlantic Storm Track Experiment)等のプロジェクトが実施され、北西大西洋の爆弾低気圧の研究が進んでいますが、爆弾低気圧は台風に匹敵する大規模災害をもたらす現象にも係らず、国内での研究は大幅に遅れています。その理由として、①個々の災害の事例解析に終始し、例えば突風の直接的原因となる竜巻や豪雪の要因となる日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)等の局地現象のみに重点が置かれ、その発生環境場を形成している爆弾低気圧の重要な役割に関して包括的な理解が進んでいないこと、②規模・強度において温帯低気圧の延長線上で爆弾低気圧を捉えていたため、爆弾低気圧活動の変動機構や爆弾低気圧災害の減災・防災の研究が進んでいないこと、③台風の進路予報などの防災情報と比較して、爆弾低気圧という現象の特異性から防災情報が非常に複雑になることが予想され放置されていることなどが挙げられます。特に③の原因としては、台風の暴風圏に比べて爆弾低気圧のそれは非対称性が強いこと、台風は日本からはるか遠方の海域で発生し比較的ゆっくりと日本に接近しますが、対照的に爆弾低気圧は日本近傍で発生するものが多く短時間で日本全国に影響を及ぼし得るため、警報・注意報のリードタイムが非常に短くなります。また、爆弾低気圧が去った後に、遅延して深刻な高波被害を被る事があるのも注意を喚起すべきです。

災害に対する国民の安心・安全を向上させ、船舶・鉄道事故等の回避や大規模交通障害に対する適切な対応策を講じなければ、2012年4月3日の災害のように再び深刻な人的被害・ライフライン等の被害が繰り返される事は自明です。そこで本プロジェクトは、新たな段階への発展的研究(災害対策研究)として、爆弾低気圧災害の軽減を目指した総合的な研究を実施するものです。爆弾低気圧がもたらす気象・海象災害の規模と深刻さが台風のそれに匹敵することを考慮すれば、台風の発達予測と防災情報と同様に、激しい大気現象に特化した減災研究が爆弾低気圧においても必要不可欠であると考えられます。

サブ課題

上述の背景に基づき、本研究の目的達成のために、三つのサブ課題

(1)爆弾低気圧の発生・発達・進路予測の改善
(2)爆弾低気圧起源の極端現象の再現性評価と予測の改善
(3)爆弾低気圧起源の災害ポテンシャル予測・災害リスク評価・災害予測情報の開発

について研究を進めています。

日本近海の爆弾低気圧の発達経路

最大発達率を示した位置を丸印で示し、丸印の大きさは発達率の規模を示す。
赤線は12月、緑線は1月、青線は2月のデータ


北陸地方(富山)の少雪年の経路


北陸地方(富山)の多雪年の経路