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黒潮/黒潮続流域で急発達する温帯低気圧の数値シミュレーション

平田英隆・川村隆一(九州大学大学院理学研究院)・加藤雅也・篠田太郎(名古屋大学地球水循環研究センター)

高解像度大気-海洋結合領域モデル(CReSS-NHOES)を用いて2013年1月上旬に日本南岸で発生した爆弾低気圧の再現実験を実施し,低気圧の発生・発達要因に迫りました.低気圧が急発達するときには対流圏上層のトラフに伴う高渦位域の接近と,温暖コンベアベルト(Warm Conveyor Belt: WCB)に伴う低緯度域からの高相当温位の空気の流入が生じており (図1),まずこれら二つの要因が低気圧の発達に寄与したと考えられます.

また,低気圧発達中には低気圧中心の北象限で黒潮/黒潮続流から多量の水蒸気が低気圧システム内へ供給されていました (図2).暖流からの活発な蒸発は低気圧に伴う寒冷コンベアベルト (Cold Conveyor Belt: CCB) と呼ばれる寒冷で乾燥した強い東風が,暖かい暖流上を吹くことによって生じていました.暖流から蒸発した水蒸気はCCBによって低気圧中心近傍へ輸送され,後屈前線で収束・凝結し,潜熱解放を介して低気圧の発達を促進します.中心気圧の低下に伴いCCBは強化されるので,さらに上述のプロセスが繰り返されることで暖流上では低気圧は益々発達することになります.

数値シミュレーション結果から,上記の二つの発達要因に加えて中緯度海洋からの水蒸気供給も,南岸低気圧の急発達に大きく寄与したと考えられます.

(本研究は,対流圏科学研究室(九州大学)と名古屋大学地球水循環研究センターとの共同研究によるものです.)

図1. 2013年1月14日に急発達した南岸低気圧の発達環境場

灰色の領域はエルテルの渦位の2 PVU面の3次元分布を示しています.おおよそ力学的対流圏界面に対応します.圏界面が落ち込み(凹部),いわゆる「圏界面の折れ込み」が見られます.また,等値線は海面更正気圧,ベクトルは高度1 kmの水平風を示しています.高度100mでの高相当温位を赤で,低相当温位を青で示しています.南から高相当温位の空気が低気圧中心へ向かって流入していることがわかります.

図2. 黒潮/黒潮続流からの水蒸気供給がもたらす熱

灰色の領域は急発達する低気圧に伴う雲,雲内の茶色の領域は強い上昇流域で,それらの3次元分布を示しています.また,図1と同様に,等値線は海面更正気圧,ベクトルは高度1 kmの水平風を示しています.黒潮/黒潮続流に沿って出現する赤色の領域は海面から多量の潜熱フラックス(W/m2)が生じていることを表しています.

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