トップページ最近の研究から爆弾低気圧はどのくらい前から予測できるのか?

最近の研究から
黒潮/黒潮続流域で急発達する温帯低気圧の数値シミュレーション 2013年3月2日に道東地方に暴風雪被害をもたらした爆弾低気圧の数値シミュレーション 爆弾低気圧はどのくらい前から予測できるのか?

爆弾低気圧はどのくらい前から予測できるのか?

吉田 聡(海洋研究開発機構アプリケーションラボ)

今シーズンも日本に災害をもたらしている爆弾低気圧。普段の天気予報では明日の予報で爆弾低気圧が発達することを知る場合が多いかもしれません。一方で、台風は数日前から進路や強度予報が予報円という確率情報と共に発表されています。このような予報の仕方は爆弾低気圧では無理なのでしょうか。また、そもそも爆弾低気圧はどのくらい前から予測できるのでしょうか。世界各国で計算された数値予報結果と地球シミュレータを用いた数値予報実験を使って、その疑問に答える研究を進めています。

爆弾低気圧の予測において台風との違いはなんでしょう。まず、台風は多くの場合、日本の南の海上で発達したものが数日かけて日本に近づいてくるのに対し、爆弾低気圧は日本付近に近づいてから1日程度で急発達します。つまり台風がどこを通るかという「線」の予測に対し、爆弾低気圧はいつどこで発達するかという「点」の予測になります。また、台風は中心ほど強風という軸対象な風速分布を持っていますが、爆弾低気圧は非対称な風速分布が広範囲に広がります(図1)。このため、台風のように中心からの円で暴風域を示す表現は難しいのです。

そこで、爆弾低気圧の水平的な広がりを表現できる新たな指標LDR(Local Deepening Rateの略、日本語で言えば局所発達率)を考案しました(Kuwano-Yoshida 2014)。この指標では従来の低気圧の中心気圧ではなく、各地点での地表気圧の時間変化率を用いていますので、爆弾低気圧の発達に伴う気圧低下の水平分布を表現できます。例えば2014年12月16日に根室付近で急発達し、北海道東部に大きな高潮の被害をもたらした爆弾低気圧のLDRを見てみると、発達率が最大なのは根室付近ですが気圧変化率が大きい領域は北海道と東日本に広がっていることがわかります(図2a)。

この指標を用いて、爆弾低気圧がどのくらい前から予測できているのかを調べています。現在、日本の気象庁など世界各国の気象機関ではスーパーコンピュータで9日から2週間先までの予測計算を行っています。この予測計算は各機関一つではなく、それぞれ数十通りの計算をしています。これをアンサンブル予報といいます。これは大気には計算開始の現在の状態(初期値)に含まれる微小な誤差によってその後の予測が大きく変わってしまうという性質があり、一つだけの予測では外れる確率が高いからです。初期値を少しずつ違えた計算をすることで予測の的中率を上げるのです。競馬の単勝と複勝の違いに似ています。たくさんの予報結果で多数決をすれば、より起こりそうな天候を確率として表現することもできます。ただし、必ずしも本命が実現するわけではなく、大穴の天候になることもままあります。この「本命がどの程度当たるのか」ということが「予測可能性」です。

この予測可能性の研究のために構築されたTIGGEというデータベースがあります。これは2006年から世界各国の気象機関で計算されたアンサンブル予報結果をまとめたもので、ここのデータを使って爆弾低気圧がどのくらい前からどの程度の確率で予測できているのかということを検証できます。例えば先ほどの根室沖の爆弾低気圧がどのくらい前から予測できていたのかを見てみましょう。日本の気象庁のアンサンブル予報は5日前の時点でこの低気圧が急発達することを90%以上の確率で予測していました(図2b)。また、現在世界一の予報精度を持つヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)に至っては1週間前から90%以上の確率で予測していました(図2d)。元々、1980年代に爆弾低気圧の研究が始まったのはその予測が24時間前でも難しかったことがきっかけでしたが、30年経って1週間前にほぼ予測できるようになるまで気象学は進歩しているのです。しかし、全ての爆弾低気圧が1週間前から予測できるわけではありません。2013年1月14日に日本南岸を通過しながら発達し、関東に大雪をもたらした爆弾低気圧に関しては、ECMWFでも90%以上の確率で予測できたのは4日前からでした(図3)。

このような予測可能性の違いがどうしてもたらされるのでしょうか。その要因の一つは海上での観測データの不足です。海上には地上で行われている気球を用いた高層気象観測点がほとんどないため、予測の初期値誤差が大きいのです。この誤差がその後の低気圧の発達予測に影響します。この影響を調べるため2009年1~2月に北太平洋上で航空機を用いた特別観測Winter T-PARC 2009が行われました。このときの観測で得られたデータを取り入れた初期値と取り除いた初期値でアンサンブル予測を行うと、その後の爆弾低気圧の予測精度が大きく変わりました。特別観測を取りいれた予測では5日前に実際の発達を90%以上で予測できましたが、取り除いた予測では急発達の確率が高い場所が北東側にずれてしまいました(図4)。今後は、より多くの爆弾低気圧事例の予測精度について解析を行い、どのくらい前から爆弾低気圧を予測でき、どのような場合に予測可能性が高いのかを明らかにしていきたいと思っています。

参考文献

Kuwano-Yoshida, A., 2014: Using the Local Deepening Rate to Indicate Extratropical Cyclone Activity. SOLA, 10, 199–203, doi:10.2151/sola.2014-042.

図1. JRA-55での
(a)爆弾低気圧(2014年12月17日00UTC)と
(b)伊勢湾台風(1959年9月25日00UTC)の海面気圧(実線、hPa)と地上風速(色、m/s)

図2.
(a)JRA-55の2014年12月16日12UTCのLDR(hPa/h)
(b)気象庁アンサンブル予報の5日予報のLDR(実線)とLDR≧1の確率(色、%)
(c)ECMWFアンサンブル予報の5日予報と(d)7日予報のLDRとLDR≧1の確率

図3.
(a)2013年1月14日12UTCのLDRとECMWFアンサンブル予報の(b)7日予報、(c)5日予報、(d)3日予報

図4. AFESのアンサンブル予測5日予報結果。赤紫線は実際のLDR。
(a)Winter T-PARC 2009の観測データを初期値に取り入れた予測
(b)Winter T-PARC 2009の観測データを初期値から除いた予測

最近の研究から: 一覧