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寄り回り波の追算シミュレーション ~富山湾の海岸線地形と海底地形の影響~

富山大学大学院理工学研究部(理学部)松浦知徳

冬季の富山湾には,年に数回「寄り回り波」と呼ばれる高波浪が来襲します.湾内の気象・海象が穏やかな時に突如として押し寄せることから警戒が難しく,人的あるいは沿岸構造物への被害がしばしばもたらされています.

最近の事例として,2008年2月24日に富山港で,波高9.92m,周期16秒の高波浪が全国港湾海洋波浪情報網(NOWPHAS)により観測され,波高周期ともに富山港での観測史上最大でした.この寄り回り波により,漁港施設・漁港海岸保全施設の被災や,越波等による漁船や背後の家屋の被災,死者2名と多数の負傷者が生じ,被害総額が80億円を超える惨事だったことが報告されています.

これを機に,寄り回り波に対する予測に向けた追算シミュレーションが複数行われました.しかしながら,これらの研究結果において,外洋に面した輪島や直江津では割合精度の良い結果が得られていますが,富山港では波高の誤差が大きく,その原因がまだ明らかとなっていません.

我々は,その原因に対し富山湾の複雑な地形に着目し,波浪の変形としての回折と屈折を数値的に調べました.それらについて詳細に解析した結果,寄り回り波の波浪特性に与える海岸線地形と海底地形の影響が重要であり,これらの効果を再現できるモデルを使用し適切な解像度の状況で追算シミュレーションを実施したところ,精度の向上が図られました.
そこで,この結果について紹介します.

追算シミュレーションに使用したモデルは,SWAN(Cycle3,ver.40.91:Simulating Waves Nearshore)で、デルフト工科大学により開発され,浅海域から極浅海域での波浪の特性を考慮した第三世代波浪推算モデルです.このモデルは,現在世界の波浪予測を実施しているグループが,使用および高精度化を目指しているモデルの一つです.
日本海-富山湾を異なる解像度の3つの海域(domain 1: 5km,domain 2: 1km,domain 3: 100m)で設定しました(図1).なお,外力としての風応力には気象庁の Meso Scale Model (MSM) 風データを使用しています.

寄り回り波の特徴の一つとして,高波浪が頻繁に来襲する地点としない地点のあることが挙げられます.富山湾内において,被害地点は氷見,新湊,滑川,入善の4地点に集中しています.加えて各被害地点で,高波浪の来襲する時間が異なることも特徴です.
このような寄り回り波の特徴の要因の一つとして考えられるのが,北陸の海岸線地形(図5参照)と富山湾の海底地形です(図2).
富山湾は,能登半島と佐渡島が北西と北東に控えており,深いところで水深 1000 mを越え,複雑に入り組んだ海底谷を有しています.能登半島の北東端と佐渡島の南東端での回折が富山湾奥に影響を与える可能性があります。また,沿岸まで迫った海底谷で屈折したうねりが集中する地点ができ,被災地点が限定されると考えられます.
このように,海岸線に向かって急激に水深が変化する富山湾独自の海底地形は「藍瓶」と呼ばれ,うねりが減衰せずに海岸線まで伝播する条件を備えています.
SWANではこのような海岸線地形と海底地形の影響を考慮することが出来るのが特徴です.

上記の追算モデルSWANの設定の下に,富山湾沿岸域に大きな被害をもたらした2008年2月に起きた寄り回り波の追算シミュレーションを行った結果を示します.
図4 (2008年2月24日3時)に示されるように,2月24日3時には北海道沖-東北沖を通過した温帯低気圧(図3:2008年2月23日20時)によって発生・発達した波浪が富山湾に向かって伝播してきていますが,富山湾沿岸にはまだ寄り回り波は現れていません.その後,うねりは能登半島北東端で回折し(図5:2008年2月24日8時),沿岸に到達し,特に,東から水橋,岩瀬,四方,海老江,新湊,伏木で海底地形の変化に伴う屈折効果で急激に高波浪が発生しています(図6).
本追算の伏木港での波高推算結果は,解像度100mにおいて最大3.72mと観測最大値とは0.4mの差があるものの,ピーク時の再現度が高くなり波高の再現性が改善されています(図7).沿岸では屈折効果が強く,寄り回り波の波浪推算の精度を高めるにはこの海底地形を適切に考慮する必要があます.海底地形の影響を適切に反映することができれば,寄り回り波の予測精度は向上できることが示されました.

今後の発展として我々の研究室では,2次元的な波浪の変遷を調べることに利用できるようになった衛星画像データ(ALOS/PALSAR) の解析を進めています.また,波浪研究として未解明の「沿岸域での波浪と流れの相互作用」の研究に取り組んでいます.

参考文献

大田俊紀,松浦知徳,村上智一,下川信也(2016): 地形効果による寄り回り波の波浪特性,土木学会論文集B3(海洋開発) 特集号 (Vol. 72, No.2)
長谷美波 (2017):富山県沿岸における2008年2月寄り回り波の波浪特性 (卒業論文)

追算シミュレーションの領域設定(domain1: 5 km, domain2: 1 km, domain3: 100m)

図2. 富山湾の海底地形図

図3. 風のピーク時(2008年2月23日20時)の風力と風向分布

図4. 2008年2月24日3時における日本海の波高分布.ベクトルは風,カラーは波高を示している(domain 1).

図5. 2008年2月24日8時における日本海の波高分布.ベクトルは風,カラーは波高を示している(domain 2).

図6. 2008年2月24日12時における屈折の影響を受けた富山湾沿岸の波高分布.赤い部分が屈折による波高の高まった海域を示している(domain 3).

図7. 伏木港の波高の時系列分布.モデルの解像度が5km,1km,100mと高解像度になるにつれ観測値に近づき追算精度が向上.

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